 |
 |
 |
 |
vol.7/豆腐とカマボコ
vol.8/天ぷら油
vol.9/穴子と車えび
●シリーズ2/そば学雑記帳
vol.1/そばは信州?
vol.2/そばの品種って?
vol.2/鴨焼き
vol.3/ひめ穴子の天ぷら
●シリーズ5/お店からの便り
vol.1/忘れられないお客さま
vol.2/店舗デザイナーのこだわり
vol.3/接客は十人十色 |
 |
 |
 |
 |
 |
|
 |
 |
| |
-厳選素材から職人の内緒話まで |
|
 |
いま、小松庵で使っております玄そば(収穫したあとのそばの実)は、北海道の十勝を代表するそばの生産地、新得町で育てられたものです。この玄そばに出会うまで、ずいぶんと私たちは遠回りしてきました。その話は、後半にすることにします。
新得町は、北海道のほぼ中央部、ラベンダー畑でおなじみの富良野の近くにあるそばの一大生産地です。白やピンクのそばの花が一面に広がる風景が見られるのは、ちょうど本州の夏休み期間中。そば畑の中を走る道はソバロードと呼ばれ、観光名所のひとつになっています。小松庵のそば職人は、毎年必ず収穫時期の前後に新得町に飛び、その年の作柄を見るとともに、生産者の方々との交流を行っておりますが、これは、そばの買い付けというより、素材のつくり手の思いに触れることでそば職人としての心構えを養うためです。 |
新得町は内陸部にあたるため、昼間は温かく夜が涼しいという、そばづくりには最適な気候の地です。その一方で、厳しい自然環境と痩せた土地ゆえに、多くの農作物の栽培に適しておらず、明治の開拓期から、地元に移り住んだ人たちは随分苦労をされてきたようです。新得町の方たちにとって、痩せた土地で、なおかつ短期間(米が収穫まで約半年を要するのに比べて、そばは種まきから収穫まで2ヵ月半)で収穫が見込めるそばは、家族の生活を守る命綱のようなものだったとお聞きしました。
このような事情から、新得町の方たちのそばに対する思い入れは並々ならぬものがあります。品質向上にむけた取り組み、収穫後の取扱い、保管設備に対する投資など、いずれも熱が入っており、訪れるたびに驚かされます。その歴史と努力は、全国そば生産優良地区表彰の農林水産大臣賞(最高賞)受賞という勲章を、新得町の畑作振興会豆類・そば部会にもたらしました。ちなみに、室町時代末期から続く羊羹の名店「とらや」も、新得町で栽培される小豆(あずき)を使用しているようです。 |
 |
 |
新得町産のそばは、生産量年間700tです。北海道産は全部で年間約9200トンですから、新得町産が北海道産の中に占める割合はわずか8%弱。日本全体の消費量の2割が国産、その中の半分が北海道産、さらに、北海道産の8%が新得町産…と考えていくと、私たちが使っているそばの希少価値を実感します。
日本で消費されているそば13万トンの中で、新得町産のそばはわずかに0.5%という計算になります。小松庵全店で消費する玄そばは年間約60トンですから、貴重な新得町産そばのほぼ1割に近い量を使わせていただいているわけです。それを思うと、玄そばの保管方法から製粉、そば打ちというすべての工程に対する気持ちの入りようもちがってきます。 |
北海道内で作付けされているそば品種の約9割を占めるのが、新品種の「キタワセソバ」です。当店でお出ししている新得町産のそばも、この「キタワセソバ」です。集団選択と系統団選抜によって牡丹そばから育成された固定品種で、収穫時期の実落ちが少なく、食味も風味もすぐれていることから、現在では北海道産そばの代名詞となっています。
「夏そば」とか「秋そば」という言葉があるのをご存知ですか? 「キタワセソバ」は夏型の品種、いわゆる「夏そば」で、8月から9月にかけて収穫されます。これに対して、品質、粒ぞろいが良く茨城県地方で盛んに栽培されている「常陸秋ソバ(ひたちあきそば)」、宮崎在来種の染色体を倍加することによって育成された固定品種で実が大きく、九州地方の栽培に適した「みやざきおおつぶ」、染色体を倍加させて四倍体の固定品種にした「信州大ソバ」など、本州や九州で栽培されているもののほとんどが「秋そば」です。 |
 |
 |
|
 |
新得町産の玄そばに出会うまで、ずいぶんと私たちは遠回りしてきました。そもそも、ほんの7年前まで、小松庵は自家製粉ではありませんでした。駒込の本店を飛び出し、池袋のメトロポリタンプラザに店を出してからも、しばらくは、いわば製粉会社だよりだったのです。
もちろん、私たちがおいしいと感じた産地の玄そばを指定し、挽いてもらってはいましたが、もどかしい思いをずっとしていました。自分たちで産地へ出向き、買い付け、保管し、そのうえで、石臼で挽いて、すぐにそばを打つ。でなければ、そば職人として胸を張ってお客さまにお出しできるそばは打てない、と。当たり前のことですね。 |
自家製粉に切り替えることに決めてから、本格的な玄そば探しをはじめました。他人の評価や宣伝を判断材料にするのではなく、東に、西に、北に、うまいそばがあると聞けば、その都度、産地まで出向き、そばの実をわけてもらい、駒込まで持ち帰って、挽き立て打ち立てを食べて、を繰り返しました。やっと「これなら」と思えるものに出会ったのが、北海道のそばです。しかし、それは、新得町産ではなく、幌加内町という北海道を代表するそばの産地でとれた玄そば。8年前、恵比寿ガーデンプレイスタワー店を出店した前後は、この北海道・幌加内町産を使っていたのです。
産地を変え、打っては迷う、という作業は、やめませんでした。幌加内町産の玄そばから、新得町産の玄そばにかわっていったのは、そのせいです。いまも、この作業は続けています。ですから、これからも、もっと上の評価を私たち自身が下す玄そばと出会えば、そちらに変わる可能性だってあるのです。次に、玄そばの仕入先をかえるときは、小松庵のそばがもっとおいしく生まれ変わるときだと思ってください。 |
 |
|